インド旅行記~1日目~ニューデリーからスピンオフ。
トラブル編ということで切り取ってこちらに記載する。
深夜にニューデリー空港に到着し、翌朝に安宿街へ移動しようとした際のお話である。
怪しげな車に乗ってしまう
何故乗ってしまったのか今でもわからない。このセリフは乗ってしまった人間が異口同音に発するセリフだ。結果的に乗ってしまったのだから言い訳をするつもりはない。
「ハローマイフレンド」
このように声を掛けられたとき、もはや日本語でこう怒鳴っていた。
「なんやアホ向こう行け!!」
そう言い放ったとして向こうへ行くインド人など居ない。
すると日本語でこう話し始めたではないか。
「ワタシは、コレカラメインバジャルイキマス。イッショにイキマセンカ?」
危ない。流暢な日本語で話しかけてくるやつの言うことに素直に従うと99%はろくなことにならない結末が待っている。そんなことは擦り切れるほど読み込んだ地球の歩き方にも嫌というほど書かれている。妙な笑顔も今までで一番胡散臭い。しかし思考回路が麻痺してきていた。何故だかついて行ってみようかなと思い始めていた。
もう疲れたんだ。
メインバザールに行けるならそれでいいじゃないか。
多少のお金くらい払ったっていい。
絶対にそれ以外買わなければよいし最初に約束したお金だけしか払わなければよいだけだ。
・・・危険な考えだった・・・
「どうしてあなたはメインバザールに行くんですか?」
会話を始めてしまった。
「ブレックファーストです。ツイデに乗ってイケバと思ったんデス。」
そうなのか?!こいつ大丈夫かな・・・
「1人10ルピーでどうデスか?」
金取るのかよと思いつつ、後から思えばそんなに安いはずもないのだが、相場もわからないのでちゃんとメインバザールまで行ってくれるんじゃないかと思い始めていた。
ちょっと内々で相談した後、決断する。
「OK、行こう。」
満面の笑みを浮かべるインド人。ついて来いと言われて少し離れた駐車場まで移動すると、これが俺の車だと言いながら白いアンバサダーを見せつけてきた。
ん?運転席に人が居るぞ。
怪しさが120%に達する。
Sは、やめた方がいいんじゃないかと言ってきた。自分もそう思った。そのやりとりを嗅ぎ取ってか、インド人はIDカードのようなものをチラつかせてきた。空港ガイドだから大丈夫だと言う。そんな胡散臭いカードはラミネートでいくらでも自作できるし何の証明にもならない。
乗れ乗れと急かす。
「早く乗れよ!!!!」
何でこいつらはこんなに強気なのか。雨が強くなってきた。駐車場に移動したためずぶ濡れになっている。くそったれ・・・。
「どうしてもう一人いるんだよ! お前が朝飯食いに行くんじゃなかったのかよ!」
「友達と行くんだよ。」
何で俺らを誘う必要があるんだよ。
もうどうでもよくなってきた・・・
念押しだけはキッチリして流れに身を任せてみよう・・・
そう思ってしまった・・・・
「これだけは確認させてくれ。ひとつ、絶対に土産屋には連れて行くな!」
「ふたつ、絶対にまっすぐメインバザールまで行ってくれ!」
「みっつ、金は2人で20ルピーしか払わないからな!」
大声で念押しする。
車は乱暴に走り出した。ご機嫌取りのつもりか小汚いミネラルウォーターを差し出して来た。もちろん丁重にお断りする。
何やらわけのわからない言葉で会話していやがる。こっちも日本語でSと会話する。
「こいつらやばいかな・・・」
「でももう乗ってもうたしな・・・」
だいぶ走った気がする。30分くらい走っただろうか。まだですか?まだですか?と聞いてもノープロブレム、トラストミーしか返ってこない。地球の歩き方の地図を見せて今どこですかと聞いてもノープロブレム、トラストミーだ。やばい予感が止まらない。
雨が降りしきるスラム街に到着
車はそのままゴチャゴチャしたスラム街のような場所に入っていた。本格的にやばくなってきている。メインバザールという場所を実際に見たことがない自分たちは、本格的に何かとてつもない異変が起こるまでそこが別の場所と判断することは難しい。
1つだけ言えるのは安宿街には決して見えない。観光客など1人も居ない。びびってきたところで突然車が止まった。
「降りろ。」
そこはうさん臭さ極まりないツーリストオフィスのようだった。
「おい、話が違う!!」
怒鳴ったと同時に旅行代理店に行くなとは言っていなかったことを思い出した。まあ、言っても言わなくても結果は同じだった気もするが。
「何も違わないだろ!よく見ろ!」
よく見ると、そのツーリストオフィスのドアの看板には・・・
“Main Bazaar”
くそっ、くそっ、くそっ!!!やられた。
そういう名前の旅行代理店なのか。笑ってしまったが一瞬で笑いが引いた。中からガタイのいい人間が数人出て来たのだ。先頭の浅黒い針金のような眼鏡をかけたデブが慈悲深い感じのトーンでこう言った。
「いったいどうしたんですか?」
綺麗な日本語の発音に恐怖を憶えた。2人とも後ずさりを始めていた。
「どこに行くんですか?危ないですよ?」
何故か後ろのやつらが回り込んでくる。まずい、囲まれるとおしまいだ。
「カミィイイイン!!!」
デブが怒鳴りだす。そして拳を上げて殴る真似をしてやがる。頭に来る。散々トラストミーを唱えた結果がコレか。一体どういう神経してるんだ。
これがインドの洗礼か。顔を伝う雨が冷たい。
こっちも拳を作って殴る真似をすると、一瞬向こうがニヤリとした。その瞬間用意していた20ルピーをさっきのドライバーの胸ポケットにねじ込んだ後、Sの腕を掴んでダッシュで逃げた。何やら叫んでいるようだが、追っては来ていないようだった。
ただ雨がひどくなっており、Sは相当参っているように見えるし、会話もなくなっていた。何よりここがどこかなのかもわからない。
スラム街からの脱出
「おい、つけられてるぞ」
「わかってる」
小走りになっていた。だが、後をつけてくるインド人は2人、3人と増えていく。いきなりデカイやつがタックルしてきた。これには驚いた。そんなのアリかよ。
すかさず少年が現れてこう言う。
「おい!今スラれたぞ!ヤツは悪い男だ。スラれたか調べてやるからカバン見せな!」
馬鹿かこいつは。お前が一番怪しいんだよ。
「どっか行け!!!」
急いでカバンをセルフチェックしたが、鍵をかけているのでそう簡単にスラれたりするわけはないのだ。続けて少年は言う。
「そのカバンの持ち方は危ない」
気づけばカバンのポジションが背中側になっている。この少年の言う通りだ。後ろにしていたら気配を消して近づいてくる輩にナイフで切られても気づけないかもしれない。Sを見るとしっかりお腹側にポジショニングされている。なるほど、さすが旅慣れているだけのことはあるなと思った。後ろを振り返ると、後をついてくる奴らが5,6人に増えている。目つきが危なく、どうみてもバイオハザードのゾンビ集団だ。
Sがここはヤバイとしきりに言う。それは同意する。一刻も早くまともな街に出る必要があると思う。しかし誰に聞いても現在地がわからない。地図を見せてもポイントしてくれない。英語が単語ででも通じない。英語はインドの公用語の1つではなかったのだろうか?ここは地図の範囲外ということなのだろうか。繰り返すが雨が本格的にヤバイ。(もちろん傘などない)
Sがガタガタ震えている。自分も震えてきそうだ。とにかくこのゾンビたちを撒きたいからバスに乗らないかという話になる。とにかく大通りを探し、そこで動いているバスに乗ることにした。イチかバチかな作戦だが現状打開を最優先させたい。
バスを見つけ、乗り込んだ。護送車よりもひどい風体のバスである。運転手にコンノートプレイス?メインバザール?ニューデリーステーション?と聞いても首を傾げるばかりだ。コンノートプレイスとは、ニューデリー駅近くにある広大な円形の敷地にショッピングモールやビジネスモールが立ち並んだ商業地帯である。かなり特徴的な地形のため、ここに行ければそこからの道筋は見つけられたも同然である。
バスの中は体臭が渦巻いた空気でむさ苦しい。そしてインド人たちのギョロギョロした目線が痛い。こいつらこっちを見すぎだろ・・・
しばらくすると、建物の雰囲気がマシになってきた。
「あ、マクドナルド!!」
思わず降りてしまう。もう寒くて寒くて一刻も早く暖かいコーヒーが飲みたかったのだ。だがまだオープンしていなかった。入口にセキュリティーガードが立っていたのでいつ開店か聞くと、10時と言う。あと20分程なので10時まで待つことにした。
続きは、インド旅行記~1日目~ニューデリーに戻って語ることにする。自分たちについては実質の被害はなかったが、後に会った日本人旅行者たちも、ニューデリー空港から同様にどこかへ連れて行かれていた。軟禁状態でツアーを契約するまで店を出られなかった話や、高額なじゅうたんを買わざるを得なくなった話など、まんま地球の歩き方に記載されている事案の数々を体験しており、聞いている分にはおもしろく、滑らない話として昇華されていた。