コマンドサンボ体験記

体験記

コマンドサンボの道場に行った話をしよう。

コマンドサンボとは

まず、コマンドサンボとは何かから説明が必要だと思うので、Wikipediaに丸投げする。

サンボсамбоSambo)は、ソビエト連邦で開発された格闘技。ソビエト連邦においては軍隊格闘術としても発展。

Самбоはロシア語で、самооборона без оружия(samooborona bez oruzhiya、「武器を持たない自己防衛」の意)の省略であると言われている。

狭義では一般に知られているスポーツ格闘技であるスポーツサンボのことを指して、この意で使われることが最も多い。なお、このスポーツサンボを習得した者やその格闘技の選手はサンビストサンボレスラーと呼称されることがある。

Wikipediaより

なぜ護身術?

ロシアの柔術のようなものである。なんでそんなところに行こうと思ったか?
それは、護身術を身に着けたいと思ったからで、軍隊格闘術としても採用されているコマンドサンボを習得できれば護身効果はバッチリでしょう。特に海外一人旅によく出るので、何かあった時に自分で身を守れる技術を習得しておくに越したことはない。別に今までに誰かに殴られたり襲われたりしたわけでもないけれども。

もう1つは当時の上司が貸してくれた小説を読んだ感想から沸いたモチベーションである。まずは司馬遼太郎の『燃えよ剣』で、幕末の最強武装集団である新選組副隊長、土方歳三の生涯を描いた物語だ。

めちゃくちゃ面白かったですと言って返したら、次は逆サイドの立場である維新志士、坂本竜馬を主人公とした小説、『竜馬がゆく』を貸してくれた。

その2つを読み終えて思ったことは、どちらの主人公も剣術に長けており、それがなかったら早い段階であっさりと殺されていたであろうことである。2人とも、いざというときは自分で身を守れる術を備えていたのである。実際、何度となく物理的暴力に襲われながらも何とかその類まれなる剣捌きで事無きを得ている。

今の世で尚必要かという話はあるが、降りかかる火の粉を払う力があるとないとでは生存確率が変わってくる。核戦争が起こり、明日北斗の拳のような世界にならないとも限らない。

そういう流れで、護身術的な技術を習得しておこうと思い立ち、家の近くで学ぶことができないか検索してみた。

コマンドサンボの道場見学

するとなんと徒歩10分程度の近場に護身術を扱う道場を発見したのですぐに電話した。
護身術は今警察官の人が1人居るけどあんまり来なくてごにょごにょ・・・と何だか歯切れが悪かったが、とにかく一度見学に来てみたらいいということで、お邪魔することになった。

「初めまして!よろしくお願いします!」

「おう、護身術をやりたいってことだけど何でやりたいんだ?」

「あ、はい、よく1人で海外旅行とか行くんで何かあったとき対処できるようになれば良いかなと思いまして・・・」

司馬遼太郎の話は面倒くさいのでやめておいた。

「その考えはやめた方がいいな。」

「えっ」

「護身術は万能じゃない。最大の護身はそのような記念な状態にならないようにすることだ。下手に護身術を知っていることで過信なんかしたら命取りになる。」

「そうですね・・・そうならないような行動をして、それでも危険な状態になってしまったときにやっと護身術で何ができるかということでしょうか。」

「そうだな、例えば・・・」

机にあった物差しを掴んでこう言った。

「例えばこうやってナイフで刺されたときに、ただ突っ立っているだけだとまっすぐに深く刺されて致命傷になるが・・・」

そう言いながらブスッと腹に物差しを刺して来た。

「刺される直前に身体を横に開くだけで致命傷は避けられる。こういう風な技術はある。」

「おおお~、そういうのから色々教えてもらいたいです!」

「そうか、ただ電話でも言った通り、今護身術クラスは生徒が居ないんだよ。何か(格闘技)やってた経験あるの?」

「いえ、運動はサッカーとかテニスとかしか・・・それに今は全く運動してません。」

「そうか、いくつだっけ?」

「あ、えと、26です・・・」

「それならまず体力をつけてかなきゃいけないな。レスリングやってみようか。」

「へ?レスリング???」

レスリングのトレーニング

そう言ってジムの方へ連れて行かれる。

そこでは無言で見えない何かと戦っている道着姿の青年が居た。
「シュッ、シュッ、フー・・・」

道着には日の丸マークが・・・一体何者なのだろうか。
何人か居るけどみんな1人で別々のことをやっている感じだ。
壁には国体がどうのとか、めざせ五輪的な紙が貼られていた。

とんでもないところに来てしまったのではないのかな・・・

「この子らといっしょにやってみてほしい」

「はい!・・・ってこの子らって、小学生!?」

こうして小学生に混じってレスリングのトレーニングが始まった。
もちろんレスリングと言ってもプロレスではなくアマチュアレスリングの方だ。

スクワットや腕立て伏せから始まり、フットワークや両足を持ってもらって手をついて前進していったり基礎的なものが多いけど、めっちゃキツイ・・・。

ペアになってやるレスリングぽい練習が始まった。ペアの男の子、でかい・・・
自分より確実に重いでしょ。

「あの・・・小学生じゃないよね?」

「6年。」

まじか、小学6年?レスリング歴6年じゃなくて?それは本当にそうかもしれないけど。
寝ながら胴を両腕で絞めて裏返せば勝ちみたいな練習が始まる。
これはローリングという技でレスリングでポイントになる行為らしい。

そう、レスリングなど当然やったこともないしルールも知らないのでまずそこからだ。
ワニみたいにでかくて重い子供を何度も必死で抑えてスキあらば裏返す。
夏場に汗まみれで抱きつき合って揉みくちゃになるのはかなりの抵抗があった。
これは相当な筋肉痛になりそうだ。1日目はこれにて終了する。

柔道のトレーニング

色々と立て込んで間が空いてしまったため、2か月後再び道場を訪れる。
同じように基礎トレーニングやレスリングのトレーニングをやっていると、柔道着を来たおっさんが近づいてきた。

「ちょい、やろうや。」

「えぇぇぇ、何もできませんよ・・?」

そう言っているのに簡易的なリングの方へ連れて行かれる。
なんせ自分はジャージだから掴むべき襟がないので柔道なんてできないのではと思っていると、有難いことにボロボロの道着を渡された。ブカブカな気がするが、上だけ柔道着で下はジャージという異様な出で立ちでリングに上がった。

バターーーン!!!

「お、受け身はできてるじゃないか。」

いや、できるかわからん奴を投げたのかよ・・・

「あ、はい。受け身は高校の体育でやったことがあったので・・」

身体が覚えていたのだ。体育でやった柔道は、何故か正座を50分させられたり、受け身をひたすら(1人で)させられるというものすごくつまらない授業だった。
その後、ペアになって袈裟固(けさがため)という寝技をひたすらやらされたくらいで試合みたいな組手をした覚えはあまりない。とにかくちょろっとやっただけでここで覚えた受け身も完璧であるはずもなく、ダメージを受けている感が半端ない。

「ちょっと何やっていいかわからないんで何か教えてもらえますか?」

そうお願いすると、相手の脚首を蹴って投げる”出足払”を教わった。
しかし教わる時にいちいち投げられるのは辛いものがある。

ところが、教わった通りに足首を蹴ってみるが相手は微動だにしない。
清々しいほどに、一切の忖度無しである。

足払いが弱いのかと思い、力強く蹴ってみたがこっちが痛くなってきた。
それに向こうも痛てーよとか言い出した。どうすればよいと言うのか。

やきもきしていると、おっさんはヒントを語りだした。

「自分だけのタイミングで一生懸命やってもダメだ。まずは相手を崩してキッカケを作って足を払うんだ。」

なるほど。まずは袖を引っ張って相手の体勢を崩した直後にやるとうまくいくということだ。何度とやっていくうちにできるようになってきた。だがもう身体がガタガタだからこの辺で勘弁してほしい。

そう思っていると今日のトレーニングはこれで終了!となった。
そしておっさんの名前入りボロボロ道着と白帯をプレゼントされてしまう。

「これで通わないと行けなくなったな。」

ニヤリとしながらおっさんが言った。

まさかのスパーリング

そして翌週、ボロボロの道着を持って再訪する。
またまた基礎トレーニングとレスリングから始まる。
今日は小さな女の子たちが何人か居た。こんな小さな頃から・・・。
習い事として激しすぎるが、本人の意志はどれくらいあるのか考えさせられる。将来の五輪選手を育ててるのかもしれない。1人は中学生のようだが、男女分けずに練習している。

練習風景を眺めていると、この前のガタイのいい小6と中学生と思しき女の子がレスリングしているのだが、なんかこう、ハァハァ喘ぎ声を出しながら汗まみれで抱きつき合っているようにしか見えず、こんなものを思春期にやってしまっていいのかとヒヤヒヤさせられてしまった。きっとこちらの心が汚れている大人だからいやらしく見えてしまうのだろう・・・

この前のおっさんと別のおっさんがリングで組手の練習をしているのを見ていた。
その別のおっさんが結構一方的にやられているようだ。そのラウンドが終わると別のおっさんの方がこちらを見て言った。

「そこのあなた、やりましょう!」

「えっ?」

何とリングに上がれと指名されてしまった。
こっちの必殺技は“出足払”しかないのにやめてほしい。
いいじゃんいいじゃんやってみれば?と周りからも煽られ始め、容赦なく3分タイマが押されてしまう。つまりスパーリングが始まってしまった。

何度も言って申し訳ないが、手持ちの技が1つしかないので惜しみなく繰り出すしかない。
喰らえ!まず崩してからの・・・

!?

あれっ、袖を取らせてくれない。

ブーーーン・・・バターーーン!!

痛い・・・(泣)

全然崩せないので必殺出足払も繰り出せないまま投げられる、投げられる。
3分が偉く長く感じたが時間に救われた。というかどういうことだよ全然うまくいかない。
おっさん、さっきやられまくったからストレス溜まってんじゃないのか。

その後も休憩を挟みながらスパーリングは続く。
たまに技をかけることができたりしたが、やはり技のレパートリーが少ないためパターンを読まれやすく、ただひたすら体力を消耗するだけだった。

とうことで、他のも教えてくれないと・・と言うと、背負い投げの形と打ち込みの練習方法を教わった。言えば教えてくれるのだった。

 

そして・・・何やってんだっけ・・・。
護身術は?それ以前にコマンドサンボは?

 

そういう疑問とともに、忙しくもなったりして自然と足が遠のいてしまったのであった・・・。何ともヘタレな体験記でした。すみません。

 

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