ロシアの軍隊格闘術システマ
思えばここ数年間、仕事以外の定常的な活動をしていない。
例えば、スポーツや習い事などのことである。
なのでシステマの体験をしてきた。
あくまで初めて体験に行った人視点の感想およびメモであることにご留意頂きたい。
システマとは、ロシアの伝統的な武術と健康法を軸に、ロシアの特殊部隊の軍事専門家が現代武術に昇華させたものらしい。もともとこういうものに興味はあった。
システマ(ロシア語: Система, ラテン文字転写: Systema)は、ロシアの武術、軍隊格闘術。近代戦における様々な状況を想定した実戦的格闘術として、近年注目を集めている。その歴史的背景と技術的特徴から、一般向けのセミナーでは護身術として整備されたプログラムを用いて指導されている。そのため2017年時点では競技格闘技ではない。
徹底した脱力と柔らかな動作が特徴。その形態からロシアの合気道と呼ばれることがあるが、システマはリャブコ家に家伝として伝わっていたロシアの伝統武術を源流としている[1]。
ナイフ、槍、棍棒、拳銃、突撃銃などの武器に関する攻防技術が多く盛り込まれている。これはロシア伝統武術全般の共通理念である全局面戦闘、白兵戦における生存性の向上などを色濃く受け継いだものと思われる。
Wikipediaより
10年程前にコマンドサンボ道場の門戸を叩いた遠い日が懐かしい。
コマンドサンボ体験記
https://raysway.net/2020/11/09/experience-2/
今回は何がキッカケか忘れてしまったが、システマの道場がごくごく近所に存在することを知ってしまったため、ちょろっと単身乗り込むことにした。
某スポーツセンターにて初回体験
道場と書いたが、普通の市町村のスポーツセンターで練習は行われていた。
「初めまして!RAY(実際は名字を名乗る)です。」
携帯を手に指定の場所である大体育館前に威勢よく参上する。
2人の冴えなそうなおっさんが廊下の隅に座り込んでいる。
「はい、こんばんは。お座りください。」
お座りくださいって廊下の地べたやん(笑)と思いながら座ると、さっそく紙を渡された。
「よく読んでサインして。」
A4一枚の雑な同意書であるが、要約すると“怪我をしても自己責任”ということである。
サインしている途中におっさんが1人増える。
書き終えると、軽く自己紹介してと言われたので3人に対して軽く挨拶をした。
「えー、ホームページ見て来ました。この街に来て5年になります。RAYです。」
「あ、歳は36です。よろしくお願いします。」
しーん・・・
(〇〇と同じ関西人で××に来たパターンだね。)ボソボソ・・・などの感想が聞こえる。
そして向こうの自己紹介は皆無のまま質問が始まった。
「何かスポーツやってましたか?」
「いえ、特に継続的にやっているものはありません・・・。」
「体力に自信は?」
「そんなにありません・・・。」
「今日は見学?やってみる?」
「ぼちぼちやってみようかと思います。」
「しんどくなったら抜けていいからね。でも黙って帰っちゃだめですよ。」
「はい・・・」
黙って帰られた前例でもあるのだろうか。
会話が終わると事務所にお金を払いに向かう。
体育館使用料各々260円が必要らしい。
支払いを済ませ、いよいよ体育館の中へ移動する。
中には卓球をしている人、バドミントンをしている人、男女でワイワイ楽しそうにスポーツしていた。その間を縫うように歩き抜ける。
隅っこまで到達すると、リーダーのおっさんが1人のエースっぽい人に問いかけた。
「システマの4原則は?」
「えっと、、リラックス、、呼吸を整えて、姿勢を正して、、あと何でしたっけ?(笑)」
リーダーが早口で補足説明する。でもよくわからず、え?今4つありました??と質問してしまったりしたが、以下である。
システマの4大原則
-
Keep breathing (呼吸し続ける)
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Stay relaxed (リラックスを保つ)
-
Keep straight posture (姿勢を真っ直ぐ保つ)
-
Keep moving (移動し続ける)
確認を終えた後、呼吸をしながら歩き続けるトレーニングが始まる。
呼吸と歩行のワーク
まず、呼吸は鼻から吸って口から吐くのが基本。左足1歩だけ歩いてそのタイミングで1回吸う。右足を出したタイミングで1回吐く。それをしばらく繰り返した後、2歩歩く間で吸い続け、2歩歩く間で吐き続けるというように呼吸と歩数の関係を変えていく。しばらくすると3歩、4歩と徐々に増やしていく。
7歩まで増えたあたりで後ろ向きに歩くなどというのも挟んだり、眼を瞑ったり息を止めたりということもプラスされながら、10歩の間吸い続け、10歩の間吐き続けるに至る。
10歩をピークに、そのまま徐々に歩数を減らしていき、元の1歩に戻った。
自然に人を避けるワーク
次に、避け(よけ)のワークに切り替わる。
対面で歩いて近づいて来る人を避けるだけであるが、急な動作禁止という制約がついている。トレーニングをしていると、新たに3人が加わり、計7名となる。
ガタイが良さげな若者や、肉付きの良いおっさんも来たが、1人は元ギャル/元ヤンの雰囲気が少し漂う女性である。奥さんと言われていたが、どういう経緯でシステマをやっているのだろうか・・・。
予想外の攻撃にも慌てず平静を保つワーク
次に、1人が仰向けになった状態から起き上がろうとするのを、周りの6人で袋叩きにして阻止するという過激なトレーニングが始まった。
まず最初にデモンストレーションした青年が、こいつは強くやっても大丈夫だからと言われながら結構本気でボコスカしばかれているのを見て笑ってしまう。
やられている本人はまんざらでもなく、うまく攻撃をいなしてごろんと転がって立ち上がった。笑ってみていると、君の番だと指名されるというまさかの展開に。
別のワークが始まる。3人ずつ横に並んで座り、向かい合って作った間の道を仰向けになり芋虫のように背中だけをよじらせるような動きで通り抜けよという言うのだ。ほふく前進の逆のような。訳がわからなかったので見本を見せていただいた。
芋虫が通り抜ける間、頭部、顔面お構いなしにリンチする。股間にもあたる勢いである。グーやパーでバチバチボコボコ叩かれまくっている。(自分も参加しているのだけど)だけどシステマの呼吸法でフーフー言ってればよいという感じで耐えながら通り抜けた。
さあ、自分の番だ。
見よう見真似でフーフーやってみるが当然痛い。
もしかしてシステマを信じているか信じていないかの違いなのではないかと疑い始める。
次に肉付きのよいおっさんが仰向けになる。さっきの恨みというわけではないが結構強く殴ってみる。皆も人によっては容赦なく殴っている。特に奥さんは終わりかけまで行っているのに足を引っ張ってスタート地点に引き戻してイチから殴りなおすというドSぶりを発揮。
そして、リーダーの番だ。
頭がツルピカで叩き易くて笑う。
ガタイよさげな若者は、同じようにフーフー言ってるが全くダメージを受けていないように見えた。この人は本物ぽいなと感じた。
今度は、7人同時に入り乱れて殴り合うというまたもや過激なワークが始まる。もちろんこれは本気で殴るわけではなく手加減するが、顔面も対象になっている。女性には顔面や胸を触らないように配慮するが、パーだけでなくグーでも殴る。腹にパンチを受けてぐふぅっとなる。
「リラックスして呼吸(フーッ)てしてれば痛くないし大丈夫。」
まさにこの芸人のやっていたやつに近い(笑)
システマ・ピーマンズスタンダード
痛みを緩和するためのリラックス
入り乱れて殴り合うのはマスアタックというそうだ。
それが終わると休憩し、ストレッチに入った。
手首を伸ばし、アキレス腱を伸ばし、痛くなる直前まで攻めてみる。
限界のギリギリ手前で力んできてしまうところだが、そこをリラックスして落ち着き呼吸することで痛みがなくなるという。いや、痛み自体が問題なのか!?という疑問を飲み込みつついう通りにして身体をほぐす。
ここで突然リーダーが叫ぶ。
「忘れてました!こないだの大阪のシェアです!」
大阪にわざわざシステマ磨きに行ってきたようで、その内容を教えてくれるそうだ。
そういえば、ホームページにもシステマ大阪の活動やトレーニング動画が掲載されていた。大阪が総本山的な位置づけなのだろうか。
で、その内容は力で対抗してもダメな場合にリラックスで対抗すると相手が崩れるというものだった。両腕を外側から組まれて抑えられた状態から始まって、リラックスして力を抜くと相手だけがしんどくなってくるという。
皆でやってみた。皆はうんうんそうだよねと盛り上がっているが、自分はまだいまいちピンと来ていない。相手がしんどくなって勝手に相手が倒れる?何故だ??
リーダーと組んでいた人は簡単に倒れている。
うーん・・・
相手に捕まえられて、しんどくなったとしても倒れるまでは行かないし何も解決していないような気もするので質問してみる。
「こっからどうするんですか・・・?」
リーダーは、え、それ聞く?みたいな顔をして、
「相手をころすわけじゃないから。やろうと思ったらできるんだけど。」
と言いながら姿勢を崩した相手の後頭部をねじって首の骨を折るジェスチャーをやってみせた。そして、次は向かい合った相手がパンチを出す前にパンチを出すというワークが始まる。
相手の動きの”起こり”を終わらせる
ペア同士向かい合って、相手がパンチを出す前にパンチを出すというワーク。
しかし反射的に相手のパンチを見てそれより早いスピードでパンチを出すのではないと言う。
またしても疑問が生まれたので質問してみる。
「初動見てパンチを出せたとしても、相手のパンチを放っておいたら当たってしまうのでパンチをくらって痛いんじゃないですか?」
露骨にわかってないなぁという顔をされてしまった。
「相手はどうでもいいんだよ。自分がどうしたいかだ。」
それでも納得がいかないため食い下がった。
「え、でも相手のパンチをどうにかしたくなりますよね?」
きっと面倒くさい体験者だと思われたことだろう。
すると別の説明が返ってきた。相手のパンチが出る前にアゴに当てたりできると相手は殴る気を無くすと言う。
「打ってきてください。」
・・・パンチを打とうとした瞬間に自分のアゴに相手の拳が当たっていた。舌を若干噛んだ。
「痛っ。打とうとする気配を読んでるということですか?」
「読んでるわけではないです。」
そういうので打つフリをしてみた瞬間アゴに拳が当たった。
読んでるんじゃないかこれは・・・
「いや、打とうとしたでしょ?」
・・・無視した。これ以上の質問はイライラさせそうだったので別の人に聞いた。
“Don’t think. Feeeel.”
との回答があった。ブルース・リーの名台詞である。釈然としない。
休憩の後、別のワークに移った。休憩と言っても30秒くらいだしなかなかストイックで世間話とかも一切無しである。
蹴りを当てられてもうまく受け流す
次は蹴りだった。主に前蹴りによる攻撃を受け流すというものだ。
避けても防御してもならないと言う。これが非常に難しい。
基本的にブロックやガードがない。蹴りに自分の動きを同調して逸らす感じである。
要領を掴めないままストライクのワークに変わる。要は肩の力を抜いて振り子のようにしたストレートなパンチを腹に打つ。見た目と違って重みがありドスッと中に入ってくる感じ。
相当効くが、当たる瞬間にフー!フー!と言って我慢?すればダメージは軽減される。
いや、痛いし絶対赤くなっているだろう。半信半疑の表情をしていると、信じろよ!という空気感である。これではピーマンズスタンダードのコントと同じである。
ブラインドマスアタック
カッコイイ名前をつけてみたが、最後は目を瞑って入り乱れて殴り合うという過激なワーク。
先ほども似たようなことをやったが今度は目を瞑る。泣き虫パンチのようにぐるぐる腕を回して6人が同時に参戦。見えないことにより相手への遠慮が消え、偶発的に容赦ない攻撃へと変貌する。お互いにだ。場合によっては鼻に手が当たって鼻血が出ることもあろう。